冷蔵保存7日後まで、黒酒塗布の有無に関わらず、いずれの試料も腐敗は認められなかった。
最初に腐敗を認めたのは対照区で、保存10日前後に強い腐敗臭を認めた。 次いで保存2週間を過ぎた頃に黒酒2%塗布試料に腐敗臭を認めた。 最も遅く腐敗したのは黒酒塗布1%試料で、 保存2週間でも腐敗を認めず、3週間後に腐敗を認めた。
この結果から、適量の黒酒塗布により、牛肉の腐敗遅延効果が認められた。
肉の赤身を保存すると、赤色から緑がかった茶色への変色が認められることがある。これは微生物による腐敗とは異なる変化で、赤身に含まれるミオグロビンという鉄含有タンパク質中の鉄が2価(Fe2+) から3価(Fe3+)への自動酸化反応、すなわち「メト化」が原因で化学的に起こる変色である。 本検証実験における保存7日後の各試料の写真を示す。黒酒2%塗布試料は部分的にメト化の進行が認められた。
7日後以降も観察を続けたところ、メト化は黒酒2%→対照区→黒酒1%の順に進行していた。このため、適量の黒酒塗布によりメト化が抑制されるものの、過剰量の黒酒を塗布するとメト化進行が促進される可能性が示唆された。
他の官能評価項目も示す。当日は、特に2%塗布試料において黒酒の香りが強く残っていた。
黒酒の香りだと判る場合は気にならないが、黒酒の香りに不慣れで好みでない場合は気になる傾向にあった。
保存1日後からは、臭いの項目として、「肉の臭み」と「黒酒の香り」と別項目として評価したところ、黒酒添加により肉の臭みが低減すると評価。黒酒の香りは保存中にまろやかになって感じにくくなる傾向にあったが、敏感に感じ取るパネラーもいた。総じて、「好み」を決定する項目は「やわらかさ」と「肉の臭み」「黒酒の香り」であり、このうち「黒酒の香り」はパネラーの好みにより評価が分かれる結果となった。
以上の結果から、黒酒の塗布量は肉をやわらかくしつつ、黒酒の香りが残らない程度の適量に抑えるのが好ましいと考えられた。
「肉の臭み」は点数が高いほど、肉の臭みを感じないという評価となる。
「黒酒の香り」は黒酒未処理の対照区を5点とし、点数が高いほど黒酒の香りを感じないという評価となる。
「旨味」および「総合的なおいしさ」は5点満点で、点数が高いほど、旨味がある、あるいはおいしい評価となる。
「好み」はもっとも好みだと答えた人数。