牛肉品質に及ぼす黒酒の効果検証実験 牛肉品質に及ぼす黒酒の効果検証実験

1
黒酒塗布が牛肉の硬さに
及ぼす影響

  • 牛肉に黒酒を塗布することによって肉質が柔らかくなることが実証された。
  • 塗布量は肉重量の1%の方が2%よりも適していた。
  • 本検証実験では2cm厚の牛肉の両表面に塗布したが、
    肉質の軟化効果は数時間後には認められ、
    1 日~2 日後に効果は大きくなる
    ようであった。
    また、本実験より薄い肉の場合には黒酒の軟化効果は短時間で表れることが予想された。
  • 肉の結合組織(スジの部分)が顕著に軟化していたので、
    ホルモンやモツの肉質軟化にも効果があることが推測された。
  • 安価で元々の肉質が硬い肉への効果が大きいことが期待できた。
冷蔵保存中の牛肉の破断強度変化
冷蔵保存中の牛肉の破断強度変化
冷蔵保存中の牛肉の破断凹み変化
冷蔵保存中の牛肉の破断凹み変化

2
黒酒塗布による腐敗遅延効果

冷蔵保存7日後まで、黒酒塗布の有無に関わらず、いずれの試料も腐敗は認められなかった。

最初に腐敗を認めたのは対照区で、保存10日前後に強い腐敗臭を認めた。 次いで保存2週間を過ぎた頃に黒酒2%塗布試料に腐敗臭を認めた。 最も遅く腐敗したのは黒酒塗布1%試料で、 保存2週間でも腐敗を認めず、3週間後に腐敗を認めた。

この結果から、適量の黒酒塗布により、牛肉の腐敗遅延効果が認められた。

3
黒酒塗布による肉の変色

肉の赤身を保存すると、赤色から緑がかった茶色への変色が認められることがある。これは微生物による腐敗とは異なる変化で、赤身に含まれるミオグロビンという鉄含有タンパク質中の鉄が2価(Fe2+) から3価(Fe3+)への自動酸化反応、すなわち「メト化」が原因で化学的に起こる変色である。 本検証実験における保存7日後の各試料の写真を示す。黒酒2%塗布試料は部分的にメト化の進行が認められた。

7日後以降も観察を続けたところ、メト化は黒酒2%→対照区→黒酒1%の順に進行していた。このため、適量の黒酒塗布によりメト化が抑制されるものの、過剰量の黒酒を塗布するとメト化進行が促進される可能性が示唆された。

冷蔵保存7日後の試料上下ともに、左:対照区、中央:黒酒1%塗布、右:黒酒 2%塗布メト化がみられる部位を示す。

4
「やわらかさ」以外の
官能評価項目結果

他の官能評価項目も示す。当日は、特に2%塗布試料において黒酒の香りが強く残っていた。
黒酒の香りだと判る場合は気にならないが、黒酒の香りに不慣れで好みでない場合は気になる傾向にあった。

保存1日後からは、臭いの項目として、「肉の臭み」と「黒酒の香り」と別項目として評価したところ、黒酒添加により肉の臭みが低減すると評価。黒酒の香りは保存中にまろやかになって感じにくくなる傾向にあったが、敏感に感じ取るパネラーもいた。総じて、「好み」を決定する項目は「やわらかさ」と「肉の臭み」「黒酒の香り」であり、このうち「黒酒の香り」はパネラーの好みにより評価が分かれる結果となった。

以上の結果から、黒酒の塗布量は肉をやわらかくしつつ、黒酒の香りが残らない程度の適量に抑えるのが好ましいと考えられた。

黒酒塗布後経過時間の違いによる
官能評価結果

「肉の臭み」点数が高いほど、肉の臭みを感じないという評価となる。
「黒酒の香り」は黒酒未処理の対照区を5点とし、点数が高いほど黒酒の香りを感じないという評価となる。
「旨味」および「総合的なおいしさ」は5点満点で、点数が高いほど、旨味がある、あるいはおいしい評価となる。
「好み」もっとも好みだと答えた人数。

保存(黒酒塗布)当日(7h後)の官能評価結果 保存(黒酒塗布)当日(7h後)の官能評価結果
コメント
・黒酒未処理の肉は肉臭さが強かった。
・2%では黒酒の香りが強く、酸味も感じる。
・黒酒の酸味、風味が気になる。
保存(黒酒塗布)1日後(28h後)の官能評価結果 保存(黒酒塗布)1日後(28h後)の官能評価結果
コメント
・1%も2%も後味に黒酒の香りが残る (パネラーによっては、良い香りと感じたり、 逆に強くて好ましくない香りと感じた)
・黒酒未処理は脂のしつこさを感じる
・黒酒添加ではさっぱりと食べられる
牛肉イメージ
研究イメージ
保存(黒酒塗布)2日後(49h後)の官能評価結果 保存(黒酒塗布)2日後(49h後)の官能評価結果
コメント
・黒酒添加のどちらも黒酒の香りがなくなった感じがする
・黒酒未処理は黒酒添加に比べて、すごく肉々しい、脂がきつい
・1%と2%の違いはあまりないように感じた
保存(黒酒塗布)7日後(172h後)の官能評価結果 保存(黒酒塗布)7日後(172h後)の官能評価結果
コメント
・黒酒の酸味、風味が気になったため、黒酒未処理が好みである
・黒酒未処理の肉は肉臭さが強かったため、1%塗布が好みである
研究イメージ
牛肉イメージ
加藤早苗
加藤早苗
博士(水産学)
鹿児島大学水産学部食品生命科学分野准教授
1967年 札幌生まれ
1994年 北海道大学大学院水産学研究科博士後期課程修了
1996年 理化学研究所国際フロンティア研究員
1997年 NEDO産業技術研究
2001年 旭川医科大学医学科助教を経て,2016年より現職、研究テーマは「刺身の科学」、「青い血の科学」