vol.09
出水田一生 さん
株式会社イズミダ
常務取締役
鹿児島県
〝鮮魚店〟の枠を超えた未来へのアクション、心に響く
鹿屋市で40年以上続く「出水田鮮魚」。3代目として調理場に立ち、「自分達が食べたい魚を販売する」をポリシーに、魚の楽しみ方をフレッシュな切り口で発信するリーダーが出水田一生さんです。デザイナブルな店舗や商品開発など、これまでになかった視座で、鮮魚店の可能性を推し広げるさまざまなアクションを実践しています。
–大学院の研究室から鮮魚店への転身。初代祖父の思いを〝力〟に
生物学研究という仕事から、故郷に帰って家業を継ぎ始めて8年が経ちました。当初、家族や親戚のほぼ全員が、僕が大学院を辞めて魚屋を継ぐことに反対していたことを覚えています。家族や親戚は、僕が大学院を辞めてまで、今の時代の魚屋を継ぐことには不安や心配があったのだと思います。その中で、唯一、僕を後押ししてくれたのが創業者の祖父でした。自転車での魚売りから店を創業した祖父は人を楽しませることが大好きな人で、自衛隊や警察の方を自宅に招いては料理を振る舞うような、豪気な〝よかもん好き〟でした。
–テーマは現代の鮮魚店。大切にしたいのは〝心の繋がり“
かつては、「魚は、魚屋で買う」というのが当たり前の時代がありましたが、現在はスーパーやディスカウントストアなどで魚は簡単に手に入ります。価格も割安です。そんな現代において、鮮魚店の業態とは、どうあるべきなのか。未経験でこの世界に入った私は、時代的な業績の流れを見つめながら、思案、試行錯誤を繰り返してきました。そして、その中で気付き始めたのが「人と人との繋がりの大切さ」です。それは、かつて祖父が魚を自転車に積んでお客さんと〝直〟に商いをやっていたときのような、店の原型に通じるものなのかもしれません。
–人と店。そこで描かれる、ささやかな日常のストーリー
「今日、いいアジが入ってますよ。アジフライ、アジの開き、刺身、どんな風にでもさばきますから、おっしゃってくださいね」と、そんな昔ながらのやりとりが自然に行われるような店でありたいです。お客さんに親身になって、日常に寄り添う。「人と人」の出会いを大切にする場所でありたいと思っています。魚をただ棚に並べるだけでなく、地域に根ざした街の魚屋として、魚を買うことをお客さんに心から楽しんでもらえるような店作りを目指したいです。
–干物に「黒酒」を使用。魚の生臭さに効果アリ
自家製の干物は看板商品の一つです。この材料に黒酒を使用しています。魚を乾燥させる前に開いた魚の身を塩水に浸すのですが、この塩水に黒酒を混ぜて、身に染み込ませています。仕上がりの生臭さがとれ、旨みがまろやかになりますね。乾燥工程は商品の品質を大きく左右するので、室内温度、時間、乾燥加減など、ベストなバランスを探るのは簡単ではありませんでしたが、試行錯誤の末に現在の商品にたどりつきました。県外発送も承っていますので、ぜひご利用いただきたいです。
–〝鮮魚店〟の枠を超えた未来へのアクション、心に響く
魚の捌き方、調理など、魚に触れられる体験イベントを積極的に開催し、多くの人たちが魚にもっと親しめるような機会を、提案していけたらと思っています。鹿屋市魚市場の観光ツーリズムというのも展望中です。地元の市場にどんな魚が集まり、どのような流れで魚が食卓まで届くのか。また、どのようにしてセリが行われているのかなど、親子体験やツーリズムを通して、みなさんがこれまで知らなかった魚の魅力、美味しさ、面白さを発信できたらと思っています。